遺言書の種類
一般に利用できる遺言書には【自筆証書遺言】【公正証書遺言】【秘密証書遺言】の三つの形式があります。
【自筆証書遺言】は、用意の手間や費用が最も少ない形式です。その一方で、遺言書が法律上無効とされたり、遺言書そのものを紛失したりするリスクがあります。
これに対し【公正証書遺言】は、準備にこそ手間や費用がかかりますが、トラブルの予防に役立ち、安心な相続を実現できる形式といえます。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、本人が自筆で①遺言の全文、②日付、③氏名を書き、④捺印したものです。本人以外が代筆することはできません。部分的な訂正も、厳格な形式に従う必要があります。
財産の目録だけは、パソコンで作成したり、通帳等資料のコピーを添えたりすることは可能ですが、すべてに自筆での署名や捺印が必要です。
本人の死後、封印のあるなしに関わらず、家庭裁判所で「検認」の手続が必要です。「検認」とは遺言書の偽造などを防ぐために、相続人らの立ち会いのもと、家庭裁判所で開封し、内容を確認する手続です。
自筆証書遺言のメリット
本人だけで作成でき、証人も不要
費用がかからない
自筆証書遺言のデメリット
形式や内容の不備で、無効とされるリスクが比較的大きい
ごく一部の訂正でも、形式をみたさず、無効となるおそれ
内容の法律上の意味が不明確な場合、無効となるおそれ
自筆でないと作成できない
老いや病気で字が書けなくなると、作成できない
遺言書の管理上のリスク
自ら管理する場合、他の者が見つけ、改ざんや破棄をするおそれ
紛失したり、死後、遺言書の存在に気付かれないおそれ
家庭裁判所で「検認」の手続が必要
管理上のリスクがあることから、手続が厳格になっています
(法務局での保管制度を利用保した場合は不要です)
自筆証書遺言をめぐるトラブル
日付の記載が原因で、遺言書が無効となったケース
日付を「昭和四拾壱年七月吉日」と記載したため、遺言書が形式面で無効に(最判昭和52年11月21日)
妻が記入を補助したことをめぐり、親族間で争いになったケース
夫に視力の衰えや手の震えがあり、妻が筆記を手伝った。妻が遺言書の内容に介入したのではないかと、親族間で十年以上続く争いに(最判昭和62年10月8日)
自筆証書遺言を検討の際は、弁護士に相談を
自筆証書遺言の場合、遺言書それ自体が、かえって相続トラブルの争点となってしまったケースも多くみられます。
自筆証書遺言でも、手数料を支払えば法務局で遺言書を保管できます。死後に相続人への通知サービスがあるほか、家庭裁判所での「検認」も不要です。ただし、遺言書を作るにあたって形式面や内容面の相談やアドバイスは受けられないため、遺言書が無効となるリスクは残ります。
安心できる相続のため、自筆証書遺言を検討されているのであれば、ぜひ専門家である弁護士にご相談ください。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは
かいつまんで言えば、「遺言書がある」という事実のみを公的に裏付ける方法です。費用や手間がかかる割には、相続トラブルを予防する効果はあまりなく、使いづらいとされています。
まず、本人が遺言書を作成し、封印した上で遺言書と同じ印で捺印します。次に公証役場に出向き、2人以上の証人と、公証人の立ち会いの下、遺言書を作成したことを申し述べます。述べられた事実を公証人が記録し、本人や証人とともに署名、捺印することで、完成します。
秘密証書遺言のメリット
本人の署名と捺印があれば、本文は代筆やパソコン等でも作成可能
遺言書の内容を、他人に知られずに済む
本人の死後、証人を通じて、遺言書の存在を伝えることができる
秘密証書遺言のデメリット
形式や内容の不備で、無効とされるおそれが比較的大きい
遺言書は封印されるため、公証人は中身を確認できません
悪用されるリスク
本文を代筆やパソコンで作成可能なため、本人の判断能力が低下した際に、意図せぬ遺言書を作成させられるおそれがある
遺言書の管理上のリスク
自筆証書遺言と同じく、紛失や改ざん等のおそれがある
自筆証書遺言と違って、法務局で保管することはできない
必ず家庭裁判所で「検認」の手続が必要
公証役場で手続をするにも関わらず、自筆証書遺言との差はほとんどありません
秘密証書遺言をめぐるトラブル
他の者が本文をワープロで作成し、判断能力の落ちた本人の秘密証書遺言として作られたケース
後妻の子の妻が、すべての財産を後妻に相続させるという、前妻の子に不利な本文をワープロで用意。本人は病気で判断能力が落ちていたこともあり、公証人の前で自分が筆者であると述べ、本人の秘密証書遺言として作成されてしまう。最終的に遺言書は無効と判断されたが、前妻の子と後妻で最高裁まで争った。(最判平成14年9月24日)
より安心な公正証書遺言の利用を
秘密証書遺言は、手間がかかる割にトラブルの予防効果は限られています。それもあってか、2023年の1年間で、公正証書遺言は全国で11万8981件も利用されているのに対し、秘密証書遺言は86件のみです(日本公証人連合会まとめ)。
安心な相続を実現するためにも、公正証書遺言をお勧めします。
公正証書遺言
公正証書遺言とは
公証人が本人の遺言を聞き取り、遺言書を作成します。法律の専門家である公証人が作成に関わるため、形式や内容の不備によって無効とされるリスクが抑えられるのが特徴です。また、遺言書が公証役場で保管されるため、紛失など管理上の危険もほとんどありません。
本人が公証役場に出向き、口頭で遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを記録します。2人以上の証人が立ち会い、本人とともに、記録した内容が正確かどうかを確認した上で、署名、捺印します。
作成された遺言書の原本は、公証役場で保管されます。
公正証書遺言のメリット
公証役場で保管するため、紛失や破棄、改ざんのおそれがない
家庭裁判所での「検認」手続が不要
公証人が作るため、無効になるリスクが低い
公証人の大半は、経験豊富な裁判官、検察官の出身です
遺言書の内容を秘密にしやすい
公証人や証人には、守秘義務が課せられています
公証役場に、証人を紹介を頼むことも可能です
死後、遺言書を見つけやすい
本人の死後、50年間保管されます
相続人などの利害関係者は、最寄りの公証役場で、公正証書遺言の有無や、どこに保管されているかを照会できます
相続人らは、謄本を郵送で取り寄せることができ、便利です
こんな場合にも対応
老いや病気で字が書けない
口述により作成できるほか、公証人による署名の代筆も可能
老いや病気で口述ができない
筆談や通訳も利用でき、言語能力が低下していても作成可能です
本人が病院に入院、又は介護施設等に入所している
公証人や証人は出張にも対応し、入院先等でも作成できます
公正証書遺言のデメリット
手間や時間、公証人の手数料がかかる
公証役場で作成できるのは平日のみです
相続財産の多さや遺言の内容によっては、口述後、完成までに一ヶ月以上かかることもあります
相続人の数や、相続財産の額などにより、手数料が異なります
口述にあたって入念な準備が必要
公証人は、全国に約500人、札幌でも8人(2024年9月現在)しかいません。遺言書だけでなく、商取引や特許関連など幅広い手続を担っています。そのため遺言書の作成も、事前に日時を決めて臨むこととなります。
遺言をスムーズに口述するには、予め内容を整理しておくのはもちろん、不動産なら登記書類、預金なら通帳の写しなど、資料や目録の準備が欠かせません。会社の経営が関わるような場合はなおさらです。
遺言書を作成するなら公正証書遺言がおすすめです
このように、自筆証書遺言と秘密証書遺言はいずれも、遺言書そのものの不備から法律上無効とされるおそれや、紛失や改ざんなどの管理上のリスクがあります。
公正証書遺言を利用することで、これらのリスクを回避できます。また、死後に相続人が手続をする上でも便利です。
一方で、作成にあたっては、慣れない公証役場で、初対面の公証人を前に、遺言を述べることとなります。公証人のアドバイスがあるとは言え、資料をもれなく揃えるのはもちろん、遺言の内容についても入念な検討が必要です。こうした準備には、法律の専門家である弁護士が大きな助けとなります。
安心できる相続のため、公正証書遺言を検討されているのであれば、ぜひ専門家である弁護士にご相談ください。